牙龍−元姫−







………ごめん




言い切った空は脱力し、頭をテーブルにピタッとくっつける。異様に静かな空間に寿々の謝罪の声が聞こえる。





寿々が悪い訳じゃない。


みんなもわかっている。


でも、寿々の事が正論で図星を付かれたらカッとなってしまったんだ。








「……ハッ。いまさら、何を信じれば良いんだよ」




自嘲的な笑みを浮かべた遼の小さな呟きは、この静かな空間では耳に届く。


本当に"いまさら"


彼女を裏切り者扱いして貶した分"いまさら"後戻りなんて出来ないんだよ。


空の胸のうちを聞いてから、遼は珍しく覇気を無くしていた。






「んなの聞くんじゃね〜よ、分かるわけねえだろえよ?」



生気が失われたように空っぽな遼に言う蒼。だらだらとしておどけた口調。でも蒼も珍しくその目が哀しみに暮れている。




煙草の煙がゆらゆら。

僕たちの心もゆらゆら。



ゆらりと、揺れ動く心。






唯一無言な戒吏――――――何を考えているのかわからない。ただ窓の外をジッとみている、微かながらの哀愁を漂わせて。
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