牙龍−元姫−






「可愛い新入生いっかな〜。新規下僕付くっちまおう〜っと。良く働いてくれる男がいいよな〜?可愛い女の子も捨て難いぜ」

「は?女なんていらねえし」




新入生=下僕という卑劣なことを言う藍原蒼衣の言葉に大野空は突った。なにも下僕発言だからではない。【女】だからだ。お分かりだろうか、空は大の女嫌いだ。


化粧まみれの顔。臭い香水。それが意外と硬派な空の癪に障る。特に教師の癖に色目を掛ける女教師は憎悪の対象だ。


大野空の女嫌いは―――――――――――――ここ数年で更に悪化した。







「空、落ち着いて。蒼も要らない事言わなくていいよ。下僕とか要らないから。いまの下僕も釈放して上げなよ」

「お堅いね〜?庵くんは。俺の楽しみとったらダメじゃね〜の」

「阿保か。んな楽しみいらねえし」




『阿保』だと言った大野空に藍原蒼衣はカチン、と来たのか食って掛かり始めた。横では未だ模範生と加賀谷遼太の仁義なき乱闘が繰り広げられている。


終わりそうにないこの展開に一番の苦労人である七瀬庵はため息をついた。各々個人主張が強すぎるのだ。七瀬庵の胃薬が持参している無くなるばかり。


そして疲れた顔色をしながら横に視線をずらした。






「どうしたの?」

「………うるせえ」




男は眉間に皺を寄せており、かなり不機嫌な様子。『煩い』は声を掛けてきた七瀬庵ではなく未だに騒ぐ女子達。そして他の四人に対してだろう。


七瀬庵は男に対して苦笑な面持ちで『眠いの?』と尋ねた。







「…ああ、少しな」



そう言い僅かに疲労感を滲ませるのは〈寿戒吏〉


まるで作られた造形物のような綺麗な顔をした男。漆黒の髪から覗く鋭い漆黒の瞳。全てが漆黒。


眠さで掠れた低い声は世の女達を虜にするには1秒もかからないだろう。
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