牙龍−元姫−
声、特徴、雰囲気。全部見覚えがあるような、ないような―――――――――私が知っている人物?



"誰か"は転けた際にずれたニット帽が顔を鼻下まで覆っているため顔が分からない。




ん?

ニット帽?








「お、オイラっす!きょん姉さん!」




首を傾げた私に"誰か"はバッとニット帽を眉上まで上げた。



その顔には、確かに見覚えがあった。そう牙龍の溜まり場に行ったときに始めて仲良くなった子。



何故か私を〈きょん姉さん〉と呼び慕ってくれていた子だ。



不良集団の輪の中にいるのに不良には染まらない不良。でも輪からはみ出す事はなかった。寧ろいつも明るい笑顔で輪の中心にいた。








「……カン太?」

「お久しぶりっす!」



牙龍の田原寛太郎。


地位なんて大それたものは持っていないカン太。だけど巧みな話術と人柄の良さ、そして人懐っ子さから信頼度は高い。

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