獣は禁断の果実を蝕むのか。
「昨日、たまたま帰りがけにお会いしたんですよ。その時、面白い話をしていたものですから。てっきり、お知り合いかと思いました。」
帰りに常務に会った?
面白い話?
専務の口から出てきた言葉は理解できる。
でも、その先の現実や言いわけを考えるほどの思考回路も働かない。
二日酔いなんて、もう、どこかに消え去っているくらい驚いているから。
「何をお聞きになったんですか?」
シラを切り通せるなら、どこまでもとぼけるしかない。
平然とした顔は、絶対に変えられない。
「ロレツも回っていなかったし、よくは聞き取れなかったが。早く戻りたいとかどうして私が…とか何とか言っていたが。」
あごに手を当てながら、何かを考えているかのようで。
ドキン
っと、痛みにも似た緊張がお腹の底から湧き上がってきた。
「あの…お恥ずかしい話ですが。」
少しうつむきながら。
ゆっくりと口を開いた。