獣は禁断の果実を蝕むのか。

「もう少しだから待ってて!!」


楽しそうに答えられても。


「待てません!!」


その怒鳴り声に、勢いよく扉を開けて出てきたのは乱れた制服を直す女の人。


顔は少し赤らんでいたけど、私の横を急いで通り過ぎながら、ムッとしながらにらんでいた。


そんなことは気にしていられない。


カツカツとヒールの音をさせながら、まだ出てこない九重部長のいる個室の前に立った。


ニュッと飛び出してきた手に腕をつかまれると、強く個室の中に引っ張られて。


「キャッ…」


小さく悲鳴を上げたのは、ビックリしたのと引きずり込まれてよろけたから。


ドンッとついた手は、さっきまで情事を楽しんでいた便座のフタの上。


人の体温がはっきりと残っている。


嫌でも頭の中には、さっきの情事の光景を想像させられる。


顔は自然と赤くなっていく。


慌てて個室から出ようと立ち上がると、ガチャッと鍵のかかる音がして。


振り向いたドアには、九重部長が腕を組みながら立っている。

< 171 / 387 >

この作品をシェア

pagetop