獣は禁断の果実を蝕むのか。

重低音の効いた声が、耳の奥から体の芯をジンジンとシビレさせる。


「変なこと言わないで下さい。」


絶好のチャンスなのに。


理性は簡単にはほどけない。


私の言葉と同時に、九重部長がつかみ上げていた私の腕を力強く後ろ手にした。


ズキッと鈍い痛みが体を走る。


「スリルは蜜の味って知っている?」

「バ…バカなことを…言わないで下さい。」


九重部長の顔が近くてそむけたいのに、痛む腕が顔をゆがませるだけでそむくことをさせてくれない。


だから、この先を想像させて声も微かに震える。


「梓悸には、どんな味を教えてもらった?どんな蜜の味がした?」


囁かれた私の耳には、どこか甘い蜜を感じさせるような九重部長の呼吸が。


ふんわりと耳の奥までかかる。


もう…限界。


痛む腕も。


顔の距離も。


これ以上のあきはない。

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