獣は禁断の果実を蝕むのか。

「へえ~、そういうの、楽しいね。」


やっとほどかれた腕。


スッと立ち上がると、ポケットからペンを出した。


さっきの情事で乱れたシャツをめくると、胸の上に自分の携帯番号を書いた。


「連絡、お待ちしています。」


ニッコリ笑うと、九重部長を押しのけるように。


ガチャッと鍵を開けて、平然とした顔をしながらトイレから出て行った。


すぐに秘書室近くの給湯室に駆け込むと、ガッとシンクに手をつき


「はあっ…」


大きくため息をついた。


ガタガタと体は震えている。


よくもここまで出来たって、自分でも不思議。


借金と犯罪者のレッテルなんて、ごめんだもん!!


皆瀬さんなんて、社長なんて相当、危ない橋を渡っているのに…


私なんか、ダマされて借金作って。


犯罪者ってなっちゃっている。


皆瀬さんみたいに、貞操を守る相手なんていない。


…たった一瞬。

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