獣は禁断の果実を蝕むのか。
「沙菜?浮かない顔してどうしたの?」
心配そうな顔をしながら、室長が私の顔をのぞき込んだ。
「いえ。大丈夫です。」
必死に笑顔を作った。
「でも…その手は?」
パソコンのキーボードを打つ手。
スーツの袖口から、チラリとのぞいているのは、昨日の九重部長が残した指の痕。
抑え込まれた時、付いてしまったんだ。
慌てて隠そうとしたけど、室長はグッと私の手を持ち上げていた。
「あの…」
説明に困っていると
「彼氏とケンカしたみたいですよ?」
皆瀬さんが明るくフォローをした。
こうやってフォローしてもらえるのも、あと数日。
1人になって、ちゃんとやれるだろうか?
心配になってきた。