獣は禁断の果実を蝕むのか。
「業務が終わった後なら、何をしようと構いません。」
冷たいメガネの奥は、相変わらず真っ暗だ。
「うるさいわね!!」
大きな声で専務をにらみつけた。
「オレの業務に支障をきたすようなら、誰だろうと容赦はしません。」
瞬時に専務の放つ冷たいオーラが冷気を増して。
痛いくらい肌に感じる。
メガネの奥の真っ暗な水の底のような視線が、氷柱のように痛いくらい全身だけじゃなくて、心の奥にまで突き刺さる。
「覚えてらっしゃい!!」
吐き捨てるように、ドアから出て行った。
私はその場に立ち尽くすしかできなくて。
オロオロと視線を動かしながら、うつむいて立っていた。
「ありがとうございました。」
そうつぶやくのが精一杯だった。
「謝罪をされる覚えはあっても、お礼を言われる覚えはありません。」
冷たい言葉を投げられたからじゃなくて。
不思議にも専務の声に安心して。
必死に押し殺していた涙を落としてしまう。