獣は禁断の果実を蝕むのか。

「す…すみ……すみません。」


どんなに止めようとしても。


心の中にホワンと温かいものが広がって。


こぼれ落ち続ける涙。


「泣いている時間があるなら、早く書類を届けてください。」


冷たく言い放つと、サッサと部屋から出て行った。


何かを期待していた?


優しい言葉をかけてくれるとか。


気遣ってくれるとか。


専務からしたら、単なる使えない秘書なのに。


心のどこかで期待していた自分がいた。


必死にこらえた涙。


秘書室に戻ると、書類の束を持って専務の部屋に向かった。


コンコン…


ドアをノックして


「失礼いたします。」


お辞儀をすると、デスクの前に立っていた専務の目の前に立った。

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