獣は禁断の果実を蝕むのか。

「せ…専務?」


まるで、専務の舌を受け入れたいかのように。


ほんの少し開けた唇。


「…残念です。心のない方とキスをする趣味は、九重部長と違って持ち合わせていません。」


ハッキリと突き刺された言葉。


心がズキズキと痛む。


まるで、専務のキスを待っていたかのように、持ち上げられたあごを離された瞬間、痛みは一気に心の中いっぱいに広がって行く。


「安心しました。専務に、私は簡単に体を開く秘書などと思われなくて。」


ニッコリと笑ったのは、泣かないため。


ここで気が緩んだら、涙が出てしまうから。


それを専務に勘違いされたくない。


私の意地だ。


なのに、グッと頭をつかまれて。


驚いた拍子に、ポロリと一粒の涙がこぼれ落ちた。

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