獣は禁断の果実を蝕むのか。

これが、私の精一杯の抵抗だ。


専務には、感情とか同情とか。


まして、好きだとかそばにいたいとか。


ありふれた言葉には慣れているって分かっているから。


これ以上の言葉は見つからなかった。


専務はフッと鼻で笑うと


「でしたら、社長でも常務でも相談役でも、お好きな方に付いてください。」


振り払われた手。


その手の行き場を無くしたように。


ギュッと胸の前で握りしめる。


「私…」


きっと、専務には聞こえないと思う。


それくらい小さくつぶやいたのに。


「何ですか?」


哀れみひとつかけない大きな背中が私に振り向いた。
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