獣は禁断の果実を蝕むのか。
憧れの会社で、華やかな秘書室で。
こんな素敵な人達に囲まれた。
人生では味わえない、この上ない夢を見られただけでも良かった。
この目を開いたら、もう最後。
強く唇を噛みしめながら、ゆっくりと上げた頭、
開いた目の中に、冷酷な獣はいつもと変わらない顔をしながら、腕を組んで立っていた。
専務のこの顔、二度と忘れない。
チクチクと痛む胸は、自然と涙が溢れそうになる。
絶対に泣くもんか!!
クルリと後ろを向くと、足早に専務室を出ようと思った。
「……強いですね。」
小さな小さな専務の声が。
たった一言だったけど。
私に投げかけられて。
思わず振り向いた。