獣は禁断の果実を蝕むのか。

憧れの会社で、華やかな秘書室で。


こんな素敵な人達に囲まれた。


人生では味わえない、この上ない夢を見られただけでも良かった。


この目を開いたら、もう最後。


強く唇を噛みしめながら、ゆっくりと上げた頭、


開いた目の中に、冷酷な獣はいつもと変わらない顔をしながら、腕を組んで立っていた。


専務のこの顔、二度と忘れない。


チクチクと痛む胸は、自然と涙が溢れそうになる。


絶対に泣くもんか!!


クルリと後ろを向くと、足早に専務室を出ようと思った。


「……強いですね。」


小さな小さな専務の声が。


たった一言だったけど。


私に投げかけられて。


思わず振り向いた。

< 270 / 387 >

この作品をシェア

pagetop