獣は禁断の果実を蝕むのか。


「うん。もう、時間がないから、これを使ったらって。」

「貰ったんですか?」


皆瀬さんはうつむいたまま。


小さく首を横に振った。


「紹介されたの。病院を。保険証もいらないし、紹介状があれば大丈夫って。紹介状を渡されたの。」

「じゃあ、皆瀬さんのコネって、常務だったんですか?」


「それ以外、ないでしょ?」

「だって、皆瀬さんは政治家の娘ですよね?」


その言葉に、皆瀬さんは涙が止まり、パッと顔を上げると眉をゆがめた。


「誰が?」

「皆瀬さんですよ。だって、常務は政治家の娘と結婚するって聞きましたよ?」


専務が言っていたもん。


政略結婚だって。


だから、皆瀬さんの事だと思ったんだけど。


「……ウソ…でしょ?」


ポッカリと開いた口。


それは、演技だとか。


冗談だとか。


そんなんじゃなくて。


本当に知らないんだって分かる。
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