獣は禁断の果実を蝕むのか。
例え、犯罪者になっても、甘い夢を見ていたかったなんて。
同じ思いを抱える皆瀬さんに言えない。
言える状況じゃない。
「本当に、ごめん…ありがとう。」
ポロポロと涙が止まらないのは、私の心を見透かしたと思いたくはない。
「今から行ってきます。今日は遅いと言っていましたから。」
カードキーを手に取ると、クルリとドアに向かった。
「抜けている小松にアドバイス。」
後姿に投げかけられた言葉に、フッと振り返った。
「何ですか?」
「まずは、状況を九重部長に聞いた方がいいわ。専務は病院や会社に行ったり来たり、重役なんかに説明とかあるだろうし。室長は病院だと思う。秘書室は、社長の容態に備えて重役が送るお見舞いなんかの準備で忙しいはず。」
「確かに、情報を確実に持っていて、聞き出せそうなのは九重部長ですね。」
「うん。そうすれば、専務の帰宅時間も読めるはずだから。」
ゆっくりとまぶたを閉じた。