獣は禁断の果実を蝕むのか。
「まさか、電話してくれたのソレ?」
「ソレと申しますと?」
「今夜、梓悸が遅くて寂しからって、誘いじゃないの?」
「違います。」
…誘いはないけど、遅いのを確かめるのは事実。
だから、冷たくハッキリと答えた。
「じゃあ、今夜、沙菜ちゃん宅に行くから。」
「行くって…住所、知らないじゃないですか?」
「そんなのは、調べりゃ分かんだろ?」
その手があったのか。
九重部長なら、秘書室でも人事でも入り放題。
調べるのは簡単だ。
「今夜はいません。」
これしか逃げる方法はないと思って、とっさに出てしまった。
「ふ~ん。梓悸の所か。」
少し上がった声のトーンに、ニヤッと笑ったのは、電話越しでも想像できる。
「どこだって、いいじゃないですか!?」
ムキニなって、声を上げた。
「別にいいけど…まあ、寂しくなったら行くよ。」
「その日は、来ないと思います。失礼します。」
フンッと鼻息荒く電話を切った。