獣は禁断の果実を蝕むのか。
どこかピリッとした空気が部屋の中を漂っている。
自然と背筋がシャンと伸びる。
男の人の座るデスクの前で、皆瀬さんはピタッと足を止めた。
「本日付で秘書室、藤衛専務執行役の秘書になります、小松沙菜です。」
皆瀬さんが私を紹介しながら軽く頭を下げた。
「ああ…そうか。」
流すように答えると、メガネの奥の瞳がチラリとこちらを見た。
ただ見られただけなのに。
ドクン
っと、大きく鼓動が鳴る。
皆瀬さんの言っていた『冷酷の獣』って言葉が本当にぴったりって実感した。