獣は禁断の果実を蝕むのか。
「では?」
その先を聞き返した。
「…九重部長に、この書類を至急、届けて欲しいのだが…」
その口元は、明らかに嫉妬でこわばっている。
「大丈夫です。専務のマーキングがありますから。」
笑顔を浮かべながら、デスクの上の書類を手に取ると、軽く会釈をして専務室を後にした。
エレベーターに乗り込むと、壁にもたれながら、崩れ落ちるかのように大粒の涙を流しながら肩を震わせた。
噛みしめた唇は、嗚咽を漏らさないように。
どうして、こんな形でしか出会えなかったの?
やっぱり、私には裏切れない。
裏切りたくない。
嘘つきと罵られても。
本当の私を見せて嫌われても。
それでも専務を裏切れない。
専務の苦しむ顔を見るなら。
罵られて罵倒された方がマシ。
どうして…