獣は禁断の果実を蝕むのか。

「はい。」


専務の声が中から聞こえると、大きく深呼吸をして。


動揺を隠してドアを開けた。


「失礼します。」


軽く会釈をすると、出て行った時のままになっている毛布の下に手を入れた。


…ない。


確かにここに置いてあったんだけど。


「どうしました?」


パソコンを打つ不思議そうな専務の顔が私に向いた。


「あの…スーツを忘れてしまったと思って。」

「ああ…捨てました。必要ないでしょ?」


「捨てた…」


言葉に詰まった私の目に、専務のパソコンのそばにあるUSBメモリーに目が行った。


まさしく、私の持っていたUSBメモリー。


どうしよう?


何て言って返してもらおう?


中身を確認していないかな?


必死に思考回路を巡らせる。
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