獣は禁断の果実を蝕むのか。
「冗談でデジウェアを差し上げることはできません。」
一段と強くなる専務の腕。
思わずしがみつきたくなるけど。
ありったけの力を込めて。
専務の腕を振り払った。
「もう、そんなウソはいりません。私に優しい言葉をかけたのも、見せることのない表情を見せたくれたのも、全部、私がスパイって証拠を掴むためだったんですよね?つかんだなら、もういいじゃないですか!?」
一気に口をついた言葉は、これ以上、苦しくなりたくない。
キライだって。
ウソだって言われた方が、私の気持ちは折り合いがつく。
「オレの仕事は完璧です。アナタが入社が決まった時から、身元くらいは徹底的に調べます。」
振りほどいた腕をギュッと握りしめた。
「だったら、バカな奴って思っていたんでしょ?もう、いいじゃないですか!!」
どんなに力を入れて振り払いたくても、専務の手に力が入って、腕が痛むだけ。
「だから予想外だと言っているんです!!」
専務の声が、いつの間にか大きくなった。