獣は禁断の果実を蝕むのか。

「…予想外?」


声が大きくてビックリしたわけじゃなくて。


予想外って言葉に驚いたから、私の唇はゆっくりと動く。


「あの常務が送り込んできたなら、女の武器はすべて使うと思いました。その時は、不必要と送り返すだけ。ですが、言ったはずです。」


私を映し出すメガネの奥の瞳は。


冷酷な獣がどこか哀しさを背負っていた。


「……」


溢れた涙も止まって、言葉を忘れるくらい。


その瞳の奥の獣の姿から視線をそらせない。


溢れた涙をぬぐうように。


専務の温かい大きな掌が、私の頬をそっと包み込んだ。


そして、穏やかな口調で。


「泣かなかった事、自分から辞めると仕事を放棄しなかったことを凄いと思ったと。今までの女を武器にしかできないような秘書とは違って、最初に見たどんくさいままの毛色の違った秘書だったことに心を捕らわれたと。」


少し…


切ない表情を浮かべながらほほ笑んだ。

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