獣は禁断の果実を蝕むのか。

「皆瀬は仕事も出来るしな。1人、退社する秘書がいるから、今辞められたら困るんでね。」

「そっか…私、クビですもんね。」


すっかり忘れていた。


ほほ笑んだ口元は、悲しいわけじゃなくて。


スッキリしたから。


もう、等身大の私に戻れるって。


なのに、クスッと専務は笑っている。


「分相応。初めて会った時に言った言葉を覚えているか?」

「…そう言えば。言われた記憶が。」


あれは、しっかり秘書の仕事をしろ、って意味じゃなかったんだっけ?


「あの恰好を見て言ったんだ。似合うようになれるかと。」

「どうしてですか!?」


「本当の沙菜を知っていたからな。思わず笑いそうになったが…どんな仕事をするのか楽しみだった。」


一生懸命、笑いをこらえているのは分かるけど。


それって…

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