獣は禁断の果実を蝕むのか。

そして、そのデジウェアは、常務の手に渡った。


私は、あの日からS&Gには出社していない。


専務からも連絡はなかった。


やっぱり、夢だったんだって思った。


冷酷な獣が見せた、禁断の果実に貪りついて。


甘い夢を見たんだって。


少し寂しかったけど。


でも、楽しい夢が見られただけで十分。


10日前、常務から電話が来て。


約束通り、キャスピテールに戻れることになったし。


横領の事実もなかったことになった。


だけど、もう、戻る気にはなれなかった。


甘い夢を思い出してしまいそうで。


折り合いをつけた気持ちが、また、湧き上がってしまいそうだったから。


そのまま、退職扱いにしてもらった。


ボーナスの一千万円は、約束通り振り込まれていたし。


ゆっくりと次の仕事でも探そう。

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