獣は禁断の果実を蝕むのか。
「小松がキャスピテールを辞めたって聞いて安心していたけど、もう、他は決まったの?」
「まだです。ゆっくりと決めようと思って。」
「そっか。じゃあ、今夜、一緒に飲みに行かない?元、スパイ同士の同窓会?って言うのもおかしいか。」
電話越しの皆瀬さんが、クスッと笑った。
「いいですね!!そういえば、一度も一緒にお昼も食べたことはなかったですもんね。」
秘書室って、役員の時間に合わせるから。
ご飯も別だったし。
それどころじゃなかったからな。
「じゃあ、今夜、7時、奮発してジェルって高級レストランでどう?」
「ジェルって…高すぎです!!いくらすると思っているんですか?」
メニュー表なんて見れないんだから。
桁が普通じゃなくて。
「いいじゃない。一千万入ったんでしょ?パーッとたまにはね?」
「入りましたけど…まあ、こんな機会ですから。」
気分は乗らないけど。
一度くらいいいかな?
こんな機会でもなければ、行けるはずないお店だもんね。
「じゃあ、7時に予約しておくから、待ってるね。」
「分かりました。」
約束すると、電話を切った。