獣は禁断の果実を蝕むのか。
「気を使わないで。どうせ、愛人と旅行でしょ?」
ピクリと眉毛を動かしながら、フッと鼻で笑った。
「まあ…そんな所ですね。」
皆瀬さんの顔には苦笑いが浮かんだ。
「藤衛専務には?」
「先程、挨拶には伺いました。」
「そう、先に行かないとうるさそうだしね。じゃあ、あとはよろしく。アタシ達は、ショッピングしてくるから。」
ポンと皆瀬さんの肩を叩くと、アンちゃんと一緒に会議室を出て行った。
「なんか…想像と違うんですけど。」
閉まった扉を見た瞬間、思わずつぶやいてしまった。
「要は、社長が秘書に手を出さないように、奥様が監視しているってこと。だから女の職場独特の雰囲気はないわけ。まあ、紹介は以上。さて、仕事よ。」
グッと背伸びをすると、首をコキコキ鳴らしながら、皆瀬さんも会議室を出た。
私も後を追うように、会議室を出た。