獣は禁断の果実を蝕むのか。

「優前産業の秘書をしていたというから、どんなに使えるかと思ったら…」


呆れたようにため息をつきながら。


オデコに手を当てると、小さく首を横に振った。


「す…すみません。」


本当のことなんて言えない。


だって…


あの経歴は潜入用のウソなんだもん。


真実は名前だけ。


「アナタには少し調教(しつけ)が必要ですね。」


突然の専務の言葉に耳を疑った。


今…なんて言った?


戸惑っている間に、さっき専務に手渡した封筒をそのまま床にポトッと落とした。


「拾ってください。」

「あ…あの…」


状況が分からなくて。


ただ、戸惑うしかできなくて。


封筒を拾えばいいだけなのに。


パニックを起こし始めた頭は、何をしたらいいかの判断まで鈍らせる。

< 44 / 387 >

この作品をシェア

pagetop