獣は禁断の果実を蝕むのか。
「焦らした方が楽しいだろ?」
そっと耳元でささやいた。
その重低音の効いた九重部長の耳元の声が。
ゾワッと背筋に小さな電気にも似た衝撃が駆け抜けた。
ここで、ボロを出すわけにいかない。
背筋の衝撃をグッと腹の底に押し込めて
「そういうことですか。」
冷たく言い放つと、チラとにらむように九重部長の顔を見た。
「どんくさそうなのに、そういう冷たい所が小悪魔ちゃんなの。」
さっきの重低音はどうしたの?
いつもの軽い声に変わって、口元をゆるませた。
「セクハラはいいですから、早く藤衛専務に頼まれたものを下さい。時間に遅れて怒られるのは私なんですから。」
肩に乗せられた手を払うと、スッと九重部長の目の前に掌を差し出した。