結婚できるの?
亜里沙を乗せたタクシーが完全に見えなくなり、智和は自分の部屋へと戻る。

室内に入った瞬間、悲しみと喪失感で肩が震えた。

何度も深呼吸しながら気持ちを落ち着かせたあと、涙が出そうになって目頭を押さえた。


部屋には自分しかいないのだから、泣いたって誰も見ていないのに……。

今ここでなら、どんな醜態だって晒して構わないのに……。

そう気づいて自嘲的な笑みが漏れる。

と同時に一筋の涙が頬を伝った。

孤独な男の哀しい泣き笑いだった。
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