ふたつの背中を抱きしめた
3.失えば、よかった
夏の、夕暮れ。
もうずいぶん沈んだ太陽は部屋に光を届けてくれない。
フローリングの固い床から身を起こした私は薄暗い部屋を手探りで自分の服を探した。
それに気付いた柊くんが慌てて電気のスイッチを入れに行く。
突然パッと明るくなった部屋に焦った私は手にしたシャツで身を隠す。
柊くんはハハッと笑って
「今さら隠さなくてもいいじゃん。」
と子供のように無邪気な笑顔を浮かべた。
「明るいと、恥ずかしいんだよ。」
「そういうもんなの?」
私は紅くなった顔を頷かせながら柊くんに背を向けてシャツを羽織った。
静かな部屋で、衣擦れの音と外から聞こえる車の通る音だけが響いた。
「…帰るの…?」
「…うん。」
私は、柊くんから見えないようにモゾモゾと服を着た。
最後にシャツのボタンを留めようとして
初めて、自分の手が震えてる事に気が付いた。