ふたつの背中を抱きしめた
2.娼婦の戯れ
私、柊くんに酷いコトをしている。
恋人のような温もりを与えておきながら、恋人じゃないと突き放す。
愛しげな視線を投げ掛けておきながら、傍にいてはあげない。
まるで子供を弄ぶ娼婦だ、と自分のズルさに自嘲する。
「こんなちんちくりんな娼婦がいるワケないけど」
私は鏡に映る自分の身体に皮肉な独り言を投げかける。
自宅の浴場で今日の汗を洗い流しながら私は考えていた。
身体はサッパリしても心は何1つスッキリしないまま風呂から出た私に、綜司さんが
「たまには外に食事に行こうか。」
と夜のデートに誘ってくれた。
「外で食べるの久しぶりだね、真陽は何が食べたい?」
「なんでもいいよ、綜司さんは?」
「真陽の好きなものにしようよ。そうだ、イタリアンは?」
「いいね、久しぶりにラザニア食べたい。」
「じゃあ決まり。新しいお店に行ってみようか、会社の人に教えてもらったんだ。」
「へー、楽しみ。」
夜の道路を走る車の中で私達はそんな会話を交わした。
座り心地の良い助手席のシートに身を沈めながら私はスマートな手つきでハンドルを握る綜司さんを見つめた。
綜司さんの愛車の助手席は私専用で、綜司さんは私以外の人をここに座らせない。
律儀で一途な綜司さんの愛のカタチ。
この助手席に相応しくなくなった私を乗せて、車はネオンに彩られた夜の道路を走る。