ふたつの背中を抱きしめた
髪を切り終えた私は、こないだより随分片付いた部屋に再び綜司さんを招いた。
今回はティーパックでは無くお気に入りのハーブティーを淹れる。
カモミールの良い香りに満たされたワンルームで
私達は向かい合ってお喋りを楽しんだ。
綜司さんは自分が勤める会社の事を教えてくれた。
それは誰もが知ってるような有名な総合商社で
私は綜司さんの卒業した大学名と併せて
彼がとんでもないエリートだと云うことに気付かされた。
…そういえば。
おぼろげな記憶が甦る。
私がこちらに住んでいた時、隣の綜司さんの家はやたらと大きかったっけ。
確かお父さんが地元の名士だとかで、綜司さんはちょっとしたお坊ちゃんだった。
小学校もやたら凛々しい制服を着て私立に通ってたし、習い事もいっぱいしていた気がする。
幼い私はそんな身分の差にも気付かず「そうたん、そうたん」と言って
綜司さんの後ろを金魚のフンみたいに着いて回ってたけど。
「スゴいね綜司さん、そんな大きい会社に入れるなんて。
昔から綜司さん頑張り屋だったもんね。」
マジマジと尊敬の念を込めて言った私に
綜司さんは目を伏せて、口元だけ笑って言った。
「別に、スゴくなんか無いよ。好きで入った訳じゃない。
そこそこの所に入らないと親が煩いからね。」
と。