ふたつの背中を抱きしめた
「ごめん、あの、…声聞きたかったから…」
電話の向こうの柊くんは嬉しそうな、でも少し戸惑ってるような声で喋った。
「びっくりした…まさか電話くれるなんて。」
そこで私はふと気付く。
「あれ、そう言えば私、柊くんに電話番号って…」
「教えてもらってないよ。だから勝手に見た。園長の机の引き出しにあった正規スタッフの住所録ってやつ。」
「えー!そんなの勝手に見て、見つかったら大目玉だよ!」
なんてコトしてるの柊くん。
私は柊くんの無茶に思わず大きな声を出してしまった。
「…怒ってる?迷惑だった?」
「怒ってないけど…後悔してる。電話番号教えておけば良かったって。」
そう言った私の口調はちょっと厳しかったのかもしれない。
「…怒んないでよ。…ごめんなさい。」
柊くんのしょげた顔が見えるような気がする程その声はしょんぼりしていた。
唇を尖らせていじける柊くんの顔が浮かんで私は思わずクスッと吹き出した。
「怒ってないってば。電話くれて嬉しいよ、ありがとう。」
私の言葉に、電話の向こうの柊くんの語気まで明るくなる。
「今、休憩中なんだ。もうすぐマル帰ってくる。あ、リンの受入先決まったから今日でお別れだって。リン、真陽に会いたがってた。」
「リンくんの受入先どこ?夏祭りで会えるかな。」
「うん、招待する施設だから大丈夫。そうだ、夏祭りって言えば・・・」
柊くんは休憩時間めいっぱいまで私に今日のコトを話してくれた。
柊くんってこんなにお喋りだったんだと驚く。
私の相槌にいちいち反応する柊くんが…愛おしい。
最後に、口頭でメールアドレスを伝え合って私達は電話をきった。
電話をきってからしばらく、私は結婚式の連絡をする気持ちになれずに
1人きりの部屋でぼんやりと天井を見ていた。