ふたつの背中を抱きしめた
3.禁じられた情熱
会えない淋しさを訴えるメールを柊くんが私に送り続けて3日目のコト。
夜勤のシフトになった私は仕事から帰った綜司さんと入れ替わる形で家を出た。
夜勤の出勤は20時から。
子供が多いときは夕方から出るコトもあるけど、今は少ないのでちょっとのんびり出勤。
今、ぬくもり園で預かっているのは未だ受入先の決まっていないマルちゃんと、昨日から入ってきたケイくんの2人だけ。
ここへ来て1週間近く経つマルちゃんはすっかり私に懐いてくれたけど
さすがにケイくんはまだ不安が強い。
マルちゃんは私と一緒に寝たがるし、ケイくんも心配だし、今日も仮眠は添い寝かな。
そんなコトを考えながら出勤してきた私はスタッフルームに入って思わず目を丸くした。
そこには
日勤のはずの柊くんが当然のような顔をしてホワイトボードの夜勤に自分の名前を書いていたから。
「おはようございます、櫻井さん。」
柊くんはしれっとした顔をしてまるで冗談のように他人行儀な挨拶をした。
私は努めて冷静に柊くんではなく、同じくスタッフルームにいた夕勤の矢口さんに聞いた。
「今日、夜勤って私と園長じゃなかったんですか?」
「園長ちょっと用事できちゃったのよ。明日、朝一で静岡だって。東海の会合のオブザーバーに東京代表で急遽呼ばれちゃったんだってさ。」
「そ、それは大変ですね…」
ウチのようなNPOは横の繋がりも重要。
全国の児童養護サポート連合に加盟して活動している以上、こういう事態もままあるのは知っていたけど。
「だから急遽、柊くんに代わってもらったのよ。助かったわ、柊くん融通が利いて。」
「でも…柊くん、バイトは大丈夫なの?」
いくら柊くんが融通が利き易いって言ったって、彼にも都合ってものがあるんじゃないかと私は心配した。
「大丈夫、ちょうどバイト休みだったし。」
口角をちょっとだけ上げてそう言った柊くんを見て、私は『絶対ウソだ』と思った。