ふたつの背中を抱きしめた
「柊くん、バイト休んだんでしょ。」
私は寝室に子供達の布団を敷きながら言った。
矢口さんが帰る前に子供達に歯磨きをさせてくれてるので、今、この部屋には私と柊くんだけだ。
「…さあね。」
柊くんはそっぽを向きながら布団を運んだ。
私は密かに眉間にしわを寄せる。
柊くんが私に会いたくてバイトを休んでまで夜勤を引き受けたのは明白だ。
…こんなコトさせてしまっていいのだろうか。
私のせいで柊くんが他で居場所を無くすようなコトがあってはいけないと、胸が痛む。
でも、そんなコトをしてはいけないとも私は言えない。
柊くんを餓えさせているのは私なのだから。
柊くんは布団を敷きながら何か言いたげにチラチラこちらを見てる。
「…怒ってないよ。」
私は柊くんの顔に書いてある『怒ってる?』と言う質問に先回りして答える。
「本当?」
「全然怒ってないよ。柊くんと仕事出来て嬉しい。私の方から会える時間作ってあげられなくてゴメンね。」
その言葉に、柊くんの顔がみるみる甘えと切なさでいっぱいになる。
「会いたかった…凄く寂しかった。」
そう訴える柊くんの瞳に、私の胸もキュッと疼く。
「たった3日じゃない。柊くん、甘えん坊。」
「しょうがないじゃん、好きなんだから。自分でもビックリだよ、こんなの。」
柊くんは照れたように頭を掻きながら、恥ずかしそうに視線を逸らした。
と、ちょうどその時
「まひろちゃーん、いっしょにねよー」
と、歯磨きを終えたマルちゃんが寝室に入ってきて
駆けて来たマルちゃんを抱き留める私を見ながら柊くんはちょっと拗ねた顔で寝室を出ていった。