ふたつの背中を抱きしめた
私達は朝の遊歩道を黙って並んで歩いた。
仕事や学校に向かう人達で街は慌ただしく賑わう。
いつものようにカラカラと自転車を押していると、柊くんが
「俺が押す。」
と言って変わってくれた。
それが、他人に優しくするコトに慣れてない不器用な柊くんなりの優しさだと、私は知っている。
柊くんの優しさは不器用すぎて周りにいつも伝わらない。
伝わるのはきっと優しさを受けた本人だけ。
私は歩きながらポロポロと涙が零れるのを止められなかった。
驚いた柊くんが足を止める。
私も顔を手で覆ってその場に立ち止まった。
「…どうして…あんなコト…。柊くん、ぬくもり園に居られなくなっちゃうよぉ…」
しゃくりあげながら言う私を、柊くんが心配そうに見つめる。
「ごめん…本当は起こしに行ったんだけど、真陽の寝顔見てたら…好きなの我慢出来なくて…マルが起きてたなんて気が付かなかった、ごめん」
柊くんの幼すぎる情熱が、痛い。
「俺が全部悪いんだ、真陽には迷惑かけないようにするから。」
そうじゃないよ、柊くん。
1人で背負わないで。
また1人で悪者にならないで。
柊くんの優しさが辛すぎて、私は嗚咽をあげるほど泣いてしまった。
人通りの多い遊歩道で立ち止まっている私達を、脇を通る人が邪魔そうに見ていく。
「真陽、少し動こう。俺達さっきから睨まれてる。」
そう言って人を避けるように私の肩を抱いた柊くんに
私は身を寄せながら言った。
「…柊くん、…今から部屋に行っていい…?」
朝の雑踏に消えそうな声で。