ふたつの背中を抱きしめた



すっかり高くなった陽の光に起こされた私が最初に目にしたのは、キッチンに立つ柊くんの後ろ姿だった。


「起きた?もう昼だよ。お腹減っただろ?」

「…うん…」

まだボンヤリした頭で上半身を起こし、素肌の上にTシャツを着る。

「洗面所借りるね…」

フラフラと立ち上がり、朝の失態を繰り返さないために洗面所の鏡の前で髪と顔を簡単に整えた。


戻ってくると部屋には美味しそうな匂いが漂っていて、柊くんがお皿を2つミニテーブルに置いていた。


「お昼、スパゲッティでいい?」

私が頷いてテーブルの前に座ると、柊くんはキッチンへ戻って今度は麦茶の入ったグラスを持ってきた。

テーブルの上のお皿には美味しそうなナポリタンが盛られ出来たての湯気をたてている。


「俺、コレだけは自信あるんだ。食べてよ。」

そう言って柊くんは嬉しそうに私の向かいに座った。


まさか、柊くんが食事を作ってくれるとは思ってもいなかった。

だんだん覚めてきた頭で私は密かに驚いた。

「ありがとう…いただきます。」

手を合わせてフォークを持ち、出来たてのスパゲッティを口へ運ぶ。

柊くんがじっと私の顔を覗き込み

「…美味い?」

と聞いてきた。

「うん、美味しい…よ…」

言い終わる前に、涙で言葉が詰まってしまった。


温かい食事が、温かい柊くんの気持ちが、今はこんなにも、辛い。



----どうして私は、
この子と一緒に居てあげられないんだろう。



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