ふたつの背中を抱きしめた
3.招待状の招く先は
どうしたらいいか分からない、と
電話の向こうで柊くんが言った。
「ぬくもり園、もう行けなくなってもいいと思ってた。でも真陽と別れろなんて言われるとは思ってなかった。」
私が園長と話した翌日、柊くんも今回の処分について園長から電話があったらしい。
柊くんはそれに強く反発したと言う。
ぬくもり園を出入り禁止になろうが婚約破棄の賠償を背負わされようが、絶対に別れない、と。
園長は私にそっと教えてくれた。
「逆に聞かれちゃったわ。『俺も真陽が欲しい。どうすれば手に入るんだ?教えてよ。』って。」
とても困った顔で笑って園長は言った。
「せっかく人を愛する事を知ったのにね。どう答えていいか分からなかった私は指導者失格ね。」
と。
「ねぇ真陽、別れないよな?無かったコトになんて俺絶対イヤだよ。」
受話器の向こうの柊くんの声は不安に満ちている。
なのに私は、園長と同じくどう答えていいか分からない。
これ以上、柊くんと会うことは
園長の慈悲をも裏切る事に、信頼と約束を破る事にもなる。
この慈悲はきっと私達の罪に与えられた最後の償いのチャンス。
これを裏切ったら、私達はもう償う事さえ出来ない。
「もしもし、真陽?なんとか言ってよ真陽!」
電話越しの沈黙が、柊くんを追い詰めてしまうのに、私は彼を安心させる言葉を紡ぐ事が出来なかった。