ふたつの背中を抱きしめた
この電話番号も、消さなくてはいけないんだろうな。
私は柊くんと通話を終えた携帯電話をじっと見つめた。
お互い、一切の関係を断ち切らなくては、この罪は拭えない。
それに中途半端な繋がりは却ってあらぬ期待を持たせて残酷だ。
全て、消さなくちゃ。
私の中の柊くんを。
柊くんの中の私を。
でも、それをしたら
きっと柊くんは絶望する。
もう誰にも心を開かなくなる。
今より深い黒にその瞳を染めて、もう誰も信じなくなる。
見たくない、そんな柊くんを。
絶対に、そんなのはイヤ。
私は黙って独りかぶりを振った。
---けれど、イヤなのはそれだけじゃない。
…私の中の柊くんを、消したくない。
柊くんとの繋がりを、失いたくない。
それは
身体を結んだ後でさえ、どこか目を逸らしていた真実。
私、
柊くんが、好きだ。
異性として、どんどん心惹かれている。
あの真っ直ぐな瞳に見つめられて、心がときめく。
屈託の無い笑顔を、独占したくなる。
幼そうに見えて逞しい身体に抱きしめられると、全てが溶けそうになる。
好き。
深い瞳も、
硬い癖っ毛も、
温かい手も、
筋肉質な背中も、
ちょっと乱暴なキスも。
柊くんが、好き。
離れたくない。
「…消せないよぉ…」
私は携帯電話を握りしめたまま
暗い部屋で独り、いつまでもうなだれていた。