ふたつの背中を抱きしめた
その想いは、柊くんも一緒だった。
「真陽と行ってみたいな。」
私の瞳を見つめながら言った柊くんに、私の胸がときめく。
まるで、男の子に初めてデートに誘われたような気分だ。
でも…。
「…私も…柊くんとお祭り行きたい…」
言葉とは裏腹に私の表情は曇っていく。
その顔を見て柊くんが溜め息をひとつ吐く。
「分かってる、ムリってコトぐらい。言ってみただけ。」
そう言って、困ったように笑うと柊くんは再び写メに目を落とした。
…あきらめさせてしまった。
その事実に私の胸の中で何かがモヤモヤと渦巻く。
柊くんの人生はきっと、あきらめの連続だ。
誰かに愛されるコトをあきらめ
誰かに認めてもらうコトをあきらめ
自分の夢も
自分自身さえもあきらめてきた柊くん。
またひとつ、彼のささやかな願いがあきらめようとされてる。
「…行こうか?お祭り。」
私の言葉に柊くんが目を見張って顔を上げた。
柊くんに、楽しい思い出を作ってあげたい。
人並みの楽しい思い出を。
そう考えるのは私のエゴだと。
分かっている胸を痛ませながら、私は柊くんに笑顔を向けた。