ふたつの背中を抱きしめた
婚約者と別れろと言うことは、私に選択を迫ること。
その言葉は諸刃の剣。
なんの確約も無い柊くんに圧倒的に不利な、諸刃の剣。
本当は独占したい。
喉から手が出るほどに。
けれど
失うくらいなら今のままで構わない。
そんな柊くんの苦しすぎる気持ちが、電話の向こうから嗚咽を堪える吐息と共に伝わってくる。
「…俺、今のままでいいから。我慢するから。」
「柊くん…」
救いたい。柊くんの切なさを。
叶えたい。その激しい想いを。
強烈に沸き上がってくるその思いが、私を突き動かす。
「…ねえ、真陽。」
少しの沈黙のあとに、柊くんが甘えた声を出した。
「何?」
「俺のコト、好き?」
「…好きだよ。大好き。」
「…うん。ならいいや。」
柊くんの少しだけ安心したようなその声が、切ない。
ごめんね、
今は好きとしか言ってあげられなくて。
でも。
「ねえ真陽。お祭り、また今度行こう。秋でも冬でも、来年でもいいからさ。」
「うん、行こう。今度こそ、必ず。」
朧気で、でもとても強い約束をしながら
私は考えていた。
綜司さんと柊くん、どちらかの手を離す覚悟を。