ふたつの背中を抱きしめた



電話をきった後でも、柊くんの不安そうな声が耳に残っている。



こんなにも、すがりつくように柊くんが私に執着する理由が、私はなんとなく分かる。



柊くんと関係が深くなるほどに思ったこと。

それは柊くんは本当に孤独だと云うこと。

彼には、何もない。

家族や親戚はもちろん親しい人も。
そしてそれに伴う体験や思い出も。

物心ついた時にはすでに独りぼっちで
幼い彼が覚えた心は…暴力に対する恐怖と憎しみ。

今日をどうやって生き延びるか。

そんな戦場のような場所で得られる喜びも安堵も無く。

そこから解放された後でさえ、彼の凍てついたココロを溶かしてくれる人はいなかった。

そんな18年間をくぐりぬけて出会ったのが私だったのだ。


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