ふたつの背中を抱きしめた
8章 壊れる九月
1.不安のプレリュード
「病み上がりなんだから無理しないで。」
そう言って綜司さんは私に代わってあれからしばらくのあいだ家事をしてくれた。
「もうすっかり治ったんだから大丈夫だよぉ。仕事だって行ってるんだし。」
そんな私の制止も聞かず、綜司さんは嬉しそうに晩御飯の洗い物をしていた。
「良かった、真陽が元気になって。本当に心配したよ。」
綜司さんは繰り返しそう言った。
その言葉が、優しさが、私の狡い胸を貫く。
目を細めて愛しそうに私を見る綜司さんの微笑みに、情けない程に未だに私の胸がときめく。
綜司さん。
好き。とても好き。
4年間育んできた想いは嘘じゃなくて。
一生貴方の傍に居たいと誓った気持ちも嘘じゃない。
そして貴方の笑顔を守りたいと願った気持ちも。
綜司さんは洗い物が済むと手を拭きながら冷蔵庫へ向かった。
「真陽、デザートにアイス食べようか?真陽の好きなラムレーズン買ってきたよ。」
そう言ってアイスの小さなカップを2個取り出しこちらへ向けて笑った。
私の好きなモノを覚えてくれている綜司さん。
そして本当は冷え性だからアイスは苦手なのに私に付き合っていつも一緒に食べてくれてるコトを私は知っている。
そんな優しさも大好きで。
アイスのカップを綜司さんから受け取りながら私はその冷たい指先をそっと掴んだ。
「真陽?」
ごめんね、綜司さん。
私、この指を離さなくちゃならない。