ふたつの背中を抱きしめた
心配する綜司さんに何度も大丈夫と言い聞かせ、車に戻って行った彼を見送ってから私は園内に入った。
そして、ロッカールームに向かう廊下で…
向こうから歩いてきた柊くんと、目が合った。
予想もしていなかった光景に、私の心臓がドクンと跳ねた。
あり得ない状況に対する混乱。
綜司さんと居るところを見られたと云う罪悪感。
そして…予想外に柊くんに会えた…嬉しさ。
その全てがごっちゃになって、私はただ目を見張って立ち尽くしていた。
けれど柊くんは、そんな私からふと目を逸らし顔を俯かせるとそのまま黙って通り過ぎようとした。
綜司さんと一緒に居るところを見られて怒らせてしまったんだろうか。
その態度に、混乱していた私は焦ってしまったんだと思う。
「あ…!柊くん、待って!あの…っ!」
思わず柊くんの手を掴んで話かけてしまった私に
柊くんは少し驚いた顔をした後、その手を振りほどいた。
「バカ!今、話し掛けんなよ!」
その言葉に、私は今の状況を思い出しハッと我に返る。
そして、そのまま背を向けて黙って帰る柊くんの後ろ姿を…泣きたいような気まずい想いで見ていた。
遠ざかる背中に小さく、ゴメン、と呟きながら。
そんな私達のやりとりを見ている人が居ることにも気付かずに。