ふたつの背中を抱きしめた
「ずいぶん柊くん怒ってるみたいだね。」
柊くんの居なくなった廊下をぼんやりと見つめ続けていた私は、突然背後から掛けられた声に驚いて振り向いた。
そこには…穏やかでは無い表情のリエさんが立ってこちらを見つめていた。
今の、リエさんに見られてた…?
私の顔色がサッと変わる。
「わ、私が急に声掛けたから、柊くん驚いちゃったみたい。」
無理やり口角を上げて作った笑顔で白々しすぎる嘘を吐いた。
「そんな感じには見えなかったけど?」
冷淡に、リエさんが切り返す。
「私、柊くんに嫌われてるのかも。だから声掛けたらあんなに怒って…」
それでもしどろもどろに嘘をつく私に、リエさんの言葉が遮った。
「イイコト教えてあげるよ真陽ちゃん。
柊くんが怒り出したのはね、真陽ちゃんが婚約者と一緒に園に来たのが見えてからだよ。」
そうハッキリ言ったリエさんの顔はとても厳しくて。
「分かりやすいよね柊くん。急に不機嫌になっちゃうんだもん。
嫌でも分かっちゃうじゃん。真陽ちゃんのコト好きなんだなって。」
リエさんのその言葉は、強張るほど緊張していく私の身体に冷たく響いていった。