ふたつの背中を抱きしめた
心配したスタッフに仮眠室に寝かされそうになるのを「大丈夫だから」と必死に断った私を、園長は応接室のゆったりとした来客用ソファーに座らせた。
「過換気症候群ね。そう言えば面接の時に言ってたわね。」
ふたりっきりの静かな応接室で園長が私の向かいに座って行った。
「すみません。最近は出てなかったんですけど…。」
私は大分整った呼吸を意識しながら喋った。
「過換気症候群って心因症よね。…櫻井さん、何か心配事でもあるの?」
そう聞いてきた園長の目が、私には見つめ返せない。
「そういう訳じゃ…。先月、体調を崩したからそのせいかも知れません。」
またひとつ、嘘をつく。
私を本気で心配してくれてる大事な人に。
けれど、園長は私を見つめたまま目を逸らさない。
「…柊くんのコトが原因…じゃないわよね?」
嗚呼。
私
どこまで堕ちるんだろう。
「違います。」
私はにっこりと微笑んで
心の底から
嘘を吐いた。