ふたつの背中を抱きしめた
長い、長い沈黙が続いた。
静かな部屋に時折、グラスの氷が溶ける音だけが響く静寂。
そして、その静寂をゆっくり綜司さんの言葉が破った。
「…過ち、だったんだよね?ほんの気の迷いだったんだろう…?」
綜司さんが両手で覆っていた顔をのろのろと上げた。
「ゴメンね真陽、きっとマリッジブルーで不安だったんだよね。気付いてあげられなくてゴメン。それで、ちょっと間違っちゃっただけなんだよね?」
「…綜司さん…」
綜司さんは虚ろな瞳に私を映しながら言った。
「別れる必要なんか無いよ、真陽。
人間なんだもの、間違いはあるし僕だって悪かった。だから、2人でやり直そう。結婚を機にもう1度僕ら再スタートしよう。」
綜司さんは、笑顔でそう言った。
それは、いつもの心から嬉しそうな笑顔では無く。
まるで貼り付いた仮面の様な笑顔で。
その光の無い瞳を見つめながら、私は思っていた。
ああ、やっぱり、と。
綜司さんはきっと
苦しんで苦しんで、そして私の罪を受け入れてしまうと
私は分かっていた。
果ての無い優しさと私への愛。
けれど私はそれに甘えるわけにはいかない。
私は、綜司さんの虚ろな瞳を見つめ返しながら首を横に振った。