ふたつの背中を抱きしめた
「ごめんなさいね、柊くん愛想が無くって。気を悪くしないでね。」
ミーティングを終えた後、園長は私にそっと耳打ちをした。
「別にやる気が無いワケでも機嫌が悪いワケでも無いのよ。上手く感情が出せない子なの。」
園長はそう言いながら業務のレジュメを私に渡した。
「ああ見えて、子供の扱いは上手いのよ。」
笑いながらそう言った園長の言葉に、私はウッカリ信じられないと云った表情をしてしまった。
そんな私を見て、園長がクスクスと笑う。
「本当よ。ガキ大将みたいなんだから。私達から見たらビックリするくらい子供を乱暴に扱うのに、何故だか子供達は柊くんが大好きなのよね。」
…ガキ大将。
なるほど、それならばなんとなくしっくり来る。
妙に納得してしまった私はなんだか可笑しくなって、園長と一緒にクスクスと笑いだした。
「きっと、子供達の気持ちが分かるのね。彼も同じ立場だったから。」
「えっ?」
園長の言葉に、私は思わず顔を上げた。
「彼もずーっと養護施設で育ってね。
だから子供の頃はよくこの園に遊びに来たし、私や古いスタッフは柊くんの事をよく知ってるの。
大きくなってからはここには来なくなったけれど、先月、高校を卒業して施設を出て一人暮らしを始めるのをウチでサポートしてあげてね。
アルバイトはしてるんだけど時間を持て余してるみたいだし、良かったらウチに来ない?って誘ってみたのよ。
そうしたら『なんで俺が』なんてブツブツ言いながらも先週から来てくれるようになってね。」
そう話す園長はなんだか嬉しそうで。
「不器用だけど本当にいい子なのよ。
打ち解けるのに時間は掛かるかも知れないけれど、仲良くしてあげてね。」
私はそんな園長の言葉にコクリと頷いた。