ふたつの背中を抱きしめた


「ごめんなさいね、柊くん愛想が無くって。気を悪くしないでね。」

ミーティングを終えた後、園長は私にそっと耳打ちをした。

「別にやる気が無いワケでも機嫌が悪いワケでも無いのよ。上手く感情が出せない子なの。」

園長はそう言いながら業務のレジュメを私に渡した。

「ああ見えて、子供の扱いは上手いのよ。」

笑いながらそう言った園長の言葉に、私はウッカリ信じられないと云った表情をしてしまった。

そんな私を見て、園長がクスクスと笑う。

「本当よ。ガキ大将みたいなんだから。私達から見たらビックリするくらい子供を乱暴に扱うのに、何故だか子供達は柊くんが大好きなのよね。」


…ガキ大将。

なるほど、それならばなんとなくしっくり来る。


妙に納得してしまった私はなんだか可笑しくなって、園長と一緒にクスクスと笑いだした。


「きっと、子供達の気持ちが分かるのね。彼も同じ立場だったから。」

「えっ?」

園長の言葉に、私は思わず顔を上げた。


「彼もずーっと養護施設で育ってね。
だから子供の頃はよくこの園に遊びに来たし、私や古いスタッフは柊くんの事をよく知ってるの。

大きくなってからはここには来なくなったけれど、先月、高校を卒業して施設を出て一人暮らしを始めるのをウチでサポートしてあげてね。

アルバイトはしてるんだけど時間を持て余してるみたいだし、良かったらウチに来ない?って誘ってみたのよ。

そうしたら『なんで俺が』なんてブツブツ言いながらも先週から来てくれるようになってね。」

そう話す園長はなんだか嬉しそうで。

「不器用だけど本当にいい子なのよ。
打ち解けるのに時間は掛かるかも知れないけれど、仲良くしてあげてね。」

私はそんな園長の言葉にコクリと頷いた。


< 24 / 324 >

この作品をシェア

pagetop