ふたつの背中を抱きしめた
ちょうど礼拝が終わり誰もいなくなったチャペルに2人で足を運んでみた。
大きな木の扉を開くと、中はシンとした空気に包まれていて思わず足がすくんだ。
「いつ見てもここは神聖な雰囲気が漂ってるよね。…なんだか、心の中までさらけ出されてる気分になる。」
同じものを感じたのか、綜司が宛どなく呟いた。
そして、2人でしずしずと祭壇の前まで行くと
綜司は正面に掛かっている十字架のレリーフを見つめながら話し始めた。
まるで懺悔の独白のように。
「…僕はね…ずっと真陽と居る自分をコンプレックスに思っていたんだよ。
本当に強くて優しい君の隣に僕みたいな臆病な奴が居ていいんだろうかって…ね。」
そう言った綜司の瞳は目の前の十字架を映してるようで、でももっとずっと遠くを観ているようで。
「そんな自分に気付かれるのがイヤで、僕は自分の持てる物を君に与えて誤魔化していたんだ。
…本当の自分を受け止めて欲しいと思いながら、肩書きだとかお金だとかそんなものを利用してたんだから、まったく、狡くて自分でも嫌になるよ。」
「…綜司…」
初めて聞いた綜司の胸の内。
知らなかった。
綜司がそんな風に思っていたコト。
コンプレックスを感じていたのはお互い様だった。
そして狡い自分を責めていたのも。
綜司はとても困ったように笑っていて。
でもその笑顔は、紛れもなく綜司の本物の笑顔で。
そして彼はその笑顔に少しだけ哀しみの色を浮かべて、ゆっくりと私の方に向き直った。
「…真陽は…やっぱりあの男が好きなの?」
ほんの少しだけ怯えを含みながら
それでも彼は、とても穏やかにそう聞いた。