ふたつの背中を抱きしめた
しばらく、2人の視線がぶつかり合った後。
広い個室の病室に、温かな風が吹き抜けて
2人はどちらともなく視線を外した。
フワリと1枚飛び込んできた桜の花弁を手のひらに受け止めて、綜司は立ち上がった。
「…で?」
「今から真陽にプロポーズするんで、少し2人きりにしてもらっていいですか?」
…常識的に考えたなら。
この青年の言ってることは、無礼を通り越して頭がおかしいと思うだろう。
他人の妻に、しかも意識が無い相手に結婚を申し込もうと言うのだから。
けれど、
いつかこんな日が来ると思っていたから。
彼女に甘え、縛り続けた日々の罪の清算をする日が。
その覚悟は、5年前から
あの十字架の前で誓った時からしてたから。
「…手短に頼むよ。」
そう言って綜司は柊に背を向けるとドアの方へとゆらりと歩いていった。
「ありがとうございます。」
そう言って頭を下げた柊を一瞥して
「…勝手にキスとかしないようにね。まだ一応僕の奥さんなんで。」
と、釘を指してから出ていった。