ふたつの背中を抱きしめた


真陽のベッドの脇に腰掛け、愛しそうに顔を眺めながら柊はゆっくりと喋り始めた。


「真陽が事故に合ったって聞いたときには、俺、心臓が止まるかと思ったよ。

すぐに駆け付けたかったのに、園長頑として病院教えてくれなかったんだぜ。『貴方が今駆け付けても御家族を動揺させるだけだ』って。

悔しかったなあ。もし真陽死んじゃったらどうすんだよって泣きわめいちゃったよ。

だから、意識は無くても一命はとりとめたって聞いた時、俺、生まれて初めて神様に感謝なんかしちゃった。」


ははっと笑った柊の頬を、窓から流れる温かい風が撫でていく。

ゆるゆるとした風は真陽の髪も揺らし軽く乱していく。

柊は真陽の頬に掛かった髪を丁寧に払ってあげ、ゆったりと微笑んだ。


「俺さあ、この5年めっちゃくちゃ頑張ったんだ。聞いてよ。保育士試験、奇跡の一発合格だぜ!すっげえだろ!

そんでさ、それから有資格者として一生懸命働いて金貯めてさ。真陽の為に介護とかリハビリの勉強もしたよ。

…まあ、ここほど広い個室の病室はちょっとムリだけど。でも、いつでも真陽を迎える準備は出来てるから。安心して寝てていいよ。真陽はお寝坊だからなあ。」


クスクスと笑いながら、柊は立ち上がってテーブルに置いてあったバイクのヘルメットを持ってきた。


「見て、俺バイクの免許も取っちゃった。移動にスゲー便利。真陽が起きたら後ろ乗せてやるからな。楽しみにしてるんだ。

だから早く起きろよ…って、あれ?俺さっきと矛盾してる?」




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